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説教『二つの献げもの』牧師 若月健悟

《聖書》申命記26章1~11節

 〝父の日〟という言葉を聞いて、皆さまはすぐに、〝お父さま〟のことを思い浮かべるのではないかと思います。どのようなお方として思い起こされているのでしょうか。

 旧約聖書では、〝偉大な父〟といえばモーセです。イスラエルの民は、エジプトで4百年にわたり奴隷として過ごしました。その苦難の時代から解放したのがモーセです。40年間荒れ野の旅を導き、約束された自由と豊かな土地の入り口まで率いたのです。さらに「モーセの十戒」と呼ばれる信仰と生活の規範を残したことです。その戒めは、時代が変わっても何1つ削除されることも付け加えられることもなく継承されたのです。つまり永遠の規範となったのです。今日のわたしたち教会へと受け継がれていることからも、それが分かります。

 モーセは、イスラエルの民に自由を与え、信仰と生活の規範を残しました。それを実現されたのが、ただ御独りの主なる神さまであることを証しし、民はただ御独りの主なる神さまに寄り頼むのです。

 モーセは、イスラエルの民と別れる日が近づいてきたことを悟りまして、遺言を残します。その遺言が、申命記26章1~15節の「信仰の告白」です。この「信仰の告白」は、前半が1~11節で、後半が12~15節です。前半で「初物の奉献」が定められ、後半で「十分の一の献げ物」が定められたのです。

【歴史的小信仰告白】

 最初の1~11節「初物の奉献」を見てまいります。

 「信仰の告白」は、信仰の内容を言葉として表現するのが目的なのですが、この「信仰の告白」はそれとは異なっているのです。ただ御独りの主なる神さまの救いの御業にどのようにお応えしたら良いのかを明らかにしているのです。「信仰の告白」は、「感謝の奉献」として、献げ物をなすことにより告白とするのです。

 この「信仰の告白」は〝歴史的小信仰告白〟と呼ばれまして、イスラエルの民は、時代が変わっても、常にこの「信仰の告白」に立って、生活することを意味するのです。これは、ただ御独りの主なる神さまを信じる信仰のゆえに、常になすべき規範として、受け継がれることになるのです。つまり、「信仰の告白」が生活を通して証しされることを告げているのです。

 では、どうして、〝歴史的小信仰告白〟と呼ばれているのでしょうか。それは、この「信仰の告白」が、主なる神さまの救いの歴史を証ししているからです。苦難の民が救い出され、未来にわたって救いが約束されていることを告白するのです。

告白の内容は、2つから組み立てられています。1~5節前半が「前文」と呼ばれます。5節後半~11節が「本文」になります。

 「前文」の1~5節前半は、これから入って行く約束の地に定着し、作物を育て、最初に採れる作物を、祭司を通して、先ず主なる神に献げることを明らかにしています。その時、家族の長である父親が、「信仰の告白」をなすのです。 

 「前文」に続くのは本文です。本文の中心は、5節後半~9節です。10節後半~11節は、初物の奉献の「信仰の告白」が終わった後、皆で分かち合ってお祝いすることを告げるのです。

 この本文の中心となる5節後半~9節は、過去、現在、未来と歴史的な順番に整えられ、3つの内容から構成されていますイスラエルの民は救いの歴史を3つの「言い伝え」として告白するのです。

 「信仰の告白」は、「信仰の証し」となっているのが特徴です。主なる神さまへの初物の奉献はなぜ必要なのか、その献げる理由となっているのです。汗水流して苦労して収穫した、最初の収穫物を家族の口に入れずに、誰よりも先に感謝を込めて神さまに献げるのです。神か人か、大きな誘惑にさらされるのです。モーセにはそれが良く分かっていました。ですから、奉献する理由がイスラエルの民皆に明確でなければなりません。そのために、3つのことを簡潔に告白することによって、確認し、納得し、自発的に献げることが求められているのです。その3つの「言い伝え」はこのように分けることができます。

 1.5節中ほど「族長の言い伝え」(過去)

 2.5節後半~8節「エジプト脱出の言い伝え」(現在)

 3.9節「土地取得の言い伝え」(未来)

【族長の言い伝え(過去)】

 最初の「族長の言い伝え」は、「わたしの先祖は、滅びゆく一アラム人であり、わずかな人を伴ってエジプトに下り、そこに寄留しました」とあります。これはイスラエルと言う名を神さまから与えられたヤコブのことです。「滅びゆく一アラム人」という言い方は、とても古い呼び名です。ですが、「滅びゆく一アラム人」との告白を通して危機に瀕したことを伝えるのです。大飢饉が起こりますが、神さまの御計らいで、末子のヨセフがエジプトの大臣の地位に上っていたことから、「滅びゆく一アラム人」は我が子ヨセフによって養い守られ、土地が与えられて、エジプトに定着したのです。

【エジプト脱出の言い伝え(現在)】

 ところが、定着したはずのヤコブ・イスラエルの子孫は、4百年の間に、エジプト人の奴隷と化し、苦難の中で、神々に救いを求めたのです。真の主なる神さまへの信仰は失われていました。ですが、主なる神さまは、イスラエルの民をお忘れにはならなったのです。アブラハムの契約を思い起こし、新たな救いの手だけを計画されたのです。その計画が、モーセによりエジプトを脱出させることでした。

 「力ある御手と御腕を伸ばし、大いなる恐るべきこととしるしをもってわたしたちを導き出し」てくださったのです。苦難と貧困からの脱出は、奇跡でした。それが実現されたのです。

【土地取得の言い伝え(未来)】

 こうして、イスラエルの民は、「乳と蜜の流れる土地を与えられました」との告白に至るのです。

 「乳と蜜の流れる土地」は象徴的な言い方で、歴史的な言葉です。「乳」は牛をはじめ家畜を意味しますから、牧畜業を思い起こさせます。ヤコブもそうでしたが、その父のイサクも、祖父のアブラ

ハムも皆牧畜を生業としていました。ですから、その子孫であるイスラエルの民が、先祖から受け継がれた牧畜を行うには、最も良い条件を備えた土地が約束されたことを意味します。         

 「蜜」は甘いものの象徴として、作物の豊かさを意味しています。特に、乾燥したナツメヤシの実は、40年間荒れ野を旅している間に、強い甘みから疲れを癒す大切な食料となりました。約束の地では、ナツメヤシの実に、さらにぶどうの実が加わるのです。その豊かさは、これから始まる自由と豊かさの生活を約束された希望となったのです。エジプトの奴隷時代には、求め得なかった自由さと豊かさが、主なる神さまにより土地と食料を通して約束されたのです。

 こうしてモーセは、エジプト脱出の現実を常に思い起こすことにより、主なる神さまがイスラエルの民への約束を必ず実現される御方であることを証しするのです。これによって、最初に収穫された作物を、惜しむ思いからではなく、感謝して献げるようにと教え諭すのです。

 これが「信仰の告白」として、生活の規範となるのです。

【二つの献げもの 】

 「信仰の告白」は、主なる神さまの救いの歴史を証ししていますが、今日、わたしたちに何を伝えているのでしょうか。

 その1つが、言葉によって証しする「信仰の告白」です。

 もう1つが、献げものによって証しする「信仰の告白」です。

この言葉と献げものは1つとなって信仰の告白を証しするのです。

 11節には、こうあります。

「あなたの神、主があなたとあなたの家族に与えられたすべての賜物を、レビ人およびあなたの中に住んでいる寄留者と共に喜び祝いなさい。」

 レビ人は、モーセの兄弟アロンの子孫として自分で牧畜、農業を営みません。ただ主なる神さまに仕え、奉仕する祭司職に従事するだけです。それで、「すべての賜物を喜び祝う」つまり分かち合うのです。

 「寄留者」も同じです。土地を持つことなく、雇われて仕事をしながら生活をする外国人です。これ以外にも、親を亡くしたこどもたち、やもめなど、自ら日々の糧を得ることのできない人々も多くいるのです。今日でいえば「福祉社会」の形成です。「すべての賜物を喜び祝う」つまり分かち合うのです。それは、苦難の中から救い出されたこと、全てが主なる神さまから与えられたことに感謝する証しなのです。

 今も、そして変わることのない、主なる神さまの愛の御手を信じて、共に分かち合い、証しして歩みましょう。


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